The Passing

岡本源太(美学)。書物を通過する軌跡。http://passing.nobody.jp/

2006-01-01から1年間の記事一覧

 エルンスト・カッシーラー『人間 (岩波文庫)』(宮城音弥訳、岩波文庫、1997年)

エルンスト・カッシーラー(Ernst Cassirer, 1874-1945)が、「象徴」という観点から、人間の特異性を考察し、神話と宗教、言語、芸術、歴史、科学の諸領域を論じた書物。実体としてではなく関数=機能として、静的なものではなく動的なものとして、人間の本…

 稲垣良典『抽象と直観』(創文社、1990年)

おもに、ウィリアム・オッカムの「直観」を軸にした認識論とトマス・アクィナスの「抽象」を軸にした認識論とを対比しながら、中世後期における認識、実在、記号、学知、魂などの捉え方の変異を辿った書物。中世の認識論が今日理解しにくくなっている要因の…

 エルヴィン・パノフスキー『イデア―美と芸術の理論のために (平凡社ライブラリー)』(伊藤博明、富松保文訳、平凡社ライブラリー、2004年)

エルヴィン・パノフスキー(Erwin Panofsky, 1892-1968)が、ヨーロッパにおける美や芸術についての議論のなかに「イデア」概念の変遷を辿った書物。芸術理論のなかで、〈模倣/表現〉、〈外界/内面〉、〈感覚的なもの/知性的なもの〉、〈客観/主観〉とい…

 ピエール・フランカステル『形象の解読〈1〉芸術の社会学的構造 (1981年)』(西野嘉章訳、新泉社、1981年)

ピエール・フランカステル(Pierre Francastel, 1900-1970)による、美術史の方法論や芸術作品の在り方についての諸論考(原著は1965年)。フランカステルは、言うまでもなく「芸術の社会学」の先駆のひとりだが、今日「芸術の社会学」と聞いて思い起こされ…

 ミシェル・セール『小枝とフォーマット―更新と再生の思想 (叢書・ウニベルシタス)』(内藤雅文訳、法政大学出版局、2006年)

ミシェル・セール(Michel Serres, 1930- )が〈普遍性/特異性〉の結びつきを「小枝」という語のもとで考察した書物(原著は2004年)。この書物で重要なのは、後半の「出現」および「今日」のふたつの章のように思う。たしかに前半についてもセールが一貫し…

 ジョルジュ・ディディ=ユベルマン『イメージ、それでもなお アウシュヴィッツからもぎ取られた四枚の写真』(橋本一径訳、平凡社、2006年)

ジョルジュ・ディディ=ユベルマン(Georges Didi-Huberman, 1953- )が、アウシュヴィッツの四枚の写真を分析しつつ、表象不可能性に対してイメージや想像の重要性を論じた書物。翻訳されたのであらためて読み返したが、イメージについての思想の射程の広が…

 エンゲルハルト・ヴァイグル『近代の小道具たち』(三島憲一訳、青土社、1990年)

エンゲルハルト・ヴァイグル(Engelhard Weigl, 1943- )が、ガリレオからフンボルトにいたる近代の科学器具の使用について、思想的、歴史的、社会的な角度から考察した書物。望遠鏡、顕微鏡、寒暖計、時計、測量器、避雷針など、17世紀から18世紀にかけて発…

 アルフォンソ・リンギス『何も共有していない者たちの共同体』(野谷啓二訳、洛北出版、2006年)

アルフォンソ・リンギス(Alphonso Lingis, 1933- )が、共有にもとづかない共同体の在り方を、「死」や「他者」との対面のうちに見いだそうとした書物。 リンギスは、おそらくエマニュエル・レヴィナスに倣い、同じものを共有することにもとづく「理性的〔…

 河本英夫『オートポイエーシス―第三世代システム』(青土社、1995年)

オートポイエーシス・システムを、動的平衡システムおよび動的非平衡システムと対比しつつ、その延長線上に位置づけた書物。オートポイエーシスは、もう何年も前から折に触れて理解しようとしているものの、いまだ漠然とした直観および理解への糸口があるだ…

 山田晶『トマス・アクィナスのキリスト論 (長崎純心レクチャーズ)』(創文社、1999年)

トマス・アクィナスのキリスト論について、歴史的な背景や現代的な意義を見据えつつ、平明に語った講演録。「人間でありかつ神である」というキリストのパラドクシカルな規定をめぐって展開された諸問題に対して、「ひとつのペルソナ、ふたつの本性(ナトゥ…

 ヴィクトル・ストイキツァ『ピュグマリオン効果―シミュラークルの歴史人類学』(松原知生訳、ありな書房、2006年)

ヴィクトル・ストイキツァ(Victor I. Stoichita, 1949- )が、ピュグマリオンの神話の諸変奏をたどりつつ、現実に取って代わるシミュラークルとしてのイメージについて考察した書物。 プラトンによる〈エイコーン/ファンタスマ〉の区別から筆を起こし、「…

 ホルスト・ブレーデカンプ『古代憧憬と機械信仰―コレクションの宇宙 (叢書・ウニベルシタス)』(藤代幸一、津山拓也訳、法政大学出版局、1996年)

ホルスト・ブレーデカンプ(Horst Bredekamp, 1947- )による、「クンストカンマー」の歴史をたどった書物。ブレーデカンプによれば、クンストカンマー、ストゥディオーロ、キャビネなどに蒐集された品々は、「自然物−古代彫刻−人工物−機械」という系列のも…

 ピエール・レヴィ『ヴァーチャルとは何か?―デジタル時代におけるリアリティ』(米山優監訳、昭和堂、2006年)

ピエール・レヴィ(Pierre Lévy, 1956- )が、virtuelと呼ばれるものを、hétérogénèseという視点から広く人類学的に位置づけ、考察した書物。ひところジャン・ボードリヤールやポール・ヴィリリオなどの名前とともに流行ったヴァーチャル化による「現実の喪…

 山内志朗『天使の記号学 (双書・現代の哲学)』(岩波書店、2001年)

中世スコラ哲学における天使論や聖霊論を、コミュニケーション論や身体論として読み解いていく書物。この書物の中心的な問題となっている「純粋なコミュニケーションを目指すことがコミュニケーションの排除に陥ってしまう」という「天使主義」のパラドクス…

 坂口ふみ『“個”の誕生―キリスト教教理をつくった人びと』(岩波書店、1996年)

ヘレニズムからビザンティンにかけてのキリスト教の教義論争を辿ることで、「個」としての「ヒュポスタシス=ペルソナ」という概念が形成されていく過程を辿った書物。東欧のギリシア教父たちによる三位一体論やキリスト論が、アリストテレス的な存在論を論…

 信原幸弘編『シリーズ心の哲学〈2〉ロボット篇』(勁草書房、2004年)

おもに人工知能の研究やロボット工学をめぐる/にもとづく「心の哲学」の論文集。古典的計算主義vsコネクショニズムやフレーム問題などがコンパクトに概観されており、全体の見通しを得るのに適した論文集のように思う。個人的な関心から、とくに力学系にも…

 神崎繁『プラトンと反遠近法』(新書館、1999年)

〈本体/あらわれ〉の分割およびそのうちの「あらわれ」の形成と密接に関わる「遠近法」を、その前史たる「背景画(skenographia)」や「光学(optika, perspectiva)」の変遷を辿りながら考察した書物。おもにギリシアからヘレニズムに重点が置かれつつ、興…

 ジョナサン・クレーリー『観察者の系譜―視覚空間の変容とモダニティ (以文叢書)』(遠藤知巳訳、十月社、1997年/以文社、2005年)

ジョナサン・クレーリーが、近代の視覚/観察者における17〜18世紀と19世紀との切断面について、科学史と美術史と哲学史を統合的に扱いながら論じた書物。個人的には、フーコー的な「切断」によって歴史を捉えようとは思わないし、まして歴史を「構築」と見…

 ジョルジュ・ディディ=ユベルマン『残存するイメージ―アビ・ヴァールブルクによる美術史と幽霊たちの時間』(竹内孝宏、水野千依訳、人文書院、2005年)

ジョルジュ・ディディ=ユベルマン(1953- )が、アビ・ヴァールブルクの美術史の方法論を、「残存」に集約される特異な時間性の観点から、同時代や先行/後続の美術史、哲学、人類学、精神分析学と照応/対比しつつ論じた書物。ディディ=ユベルマン自身の…