The Passing

岡本源太(美学)。書物を通過する軌跡。http://passing.nobody.jp/

社会

吉田健一『ヨオロッパの世紀末』

吉田健一『ヨオロッパの世紀末』、岩波文庫、1994年(初版1970年) 吉田健一はヨーロッパ文明の完成を18世紀に見る。それは18世紀に、古代のギリシア・ローマ文明とは異なるその性格が明確になり、当然のものになったということだ。ギリシア・ローマとヨーロ…

クロード・レヴィ=ストロース『野生の思考』

クロード・レヴィ=ストロース『野生の思考』大橋保夫訳、みすず書房、1976年(原著1962年) 有用性や実用性ではなく、知的な快と好奇心のほうが人間にとって根源的なものだという示唆が、本書の随所にちりばめられている。新石器時代の技術革新の数々が人類…

クロード・レヴィ=ストロース『人種と歴史』

クロード・レヴィ=ストロース『人種と歴史』(新装版)荒川幾男訳、みすず書房、2008年(原著1952年) 人類文明の飛躍的発展となった新石器時代の革命と近代の産業革命は、一つの優れた文明からではなく、いくつもの文化の提携から起こったという。人類は、…

クロード・レヴィ=ストロース『みる きく よむ』

クロード・レヴィ=ストロース『みる きく よむ』竹内信夫訳、みすず書房、2005年(原著1993年) レヴィ=ストロースは一個の作品のなかにつねに選択を見る。つまり、別様でもありえたなかでなぜこのように実現されたのかを問う。このとき構造とは、その別様…

クロード・レヴィ=ストロース『悲しき熱帯』

クロード・レヴィ=ストロース『悲しき熱帯』川田順三訳、中公クラシックス、2001年(原著1955年) 過去を、現在は失われてしまったものとしてではなく、現在に広がっているものとして捉えるとき、構造が見えてくる。風景や地層のように地理的な広がりへと分…

ジャン=ピエール・デュピュイ『ありえないことが現実になるとき』

ジャン=ピエール・デュピュイ『ありえないことが現実になるとき』桑田光平、本田貴久訳、筑摩書房、2012年(原著2002年) 未然に防ごうとする防止策は、起こりうること、可能なことに対してしかなしえない。しかしながら、起こるはずのなかったこと、不可能…

松村圭一郎『うしろめたさの人類学』

松村圭一郎『うしろめたさの人類学』、ミシマ社、2017年 社会的紐帯としての感情の共感作用を起点として、市場(交換)と国家(再配分)のあいだに社会(贈与)の空間を開くことが試みられる。もっとも、援助の実践に示されるごとく、市場と国家と社会は截然…

中井正一『日本の美』

中井正一『日本の美』、中公文庫、2019年(初版1952年)[併録の『近代美の研究』の初版は1947年] 「思想的危機における芸術ならびにその動向」(1932)では、文化の機械化と大衆化が思想の危機をもたらしたという通説が、近代における学問の専門化と職業化…

中井正一『美学入門』

中井正一『美学入門』、中公文庫、2010年(初版1951年) 中井正一とヴァルター・ベンヤミンとの親近性は、誰しもすぐさま気づかずにはいられない――脱落の美とアウラの凋落、コプラの欠如とショック作用、基礎射影と視覚的無意識、謬りを踏みしめての現在と今…

ロージ・ブライドッティ『ポストヒューマン』

ロージ・ブライドッティ『ポストヒューマン――新しい人文学に向けて』門林岳史監訳、フィルムアート社、2019年(原著2013年) ブライドッティによれば、現代の科学技術の発達と政治経済のグローバル化によって、個人主義的な主体性を人間に認めがたくなってき…

ミシェル・セール『人類再生』

ミシェル・セール『人類再生』米山親能訳、法政大学出版局、2006年(原著2001年) セールは人類の文化と認識の発展の起源を、最初期の技術たる動物の家畜化(正確には人間と動物の「相互飼い慣らし」)に見いだす。その要となったのは、分節言語によらない外…

ブリュノ・ラトゥール『近代の〈物神事実〉崇拝について——ならびに「聖像衝突」』

ブリュノ・ラトゥール『近代の〈物神事実〉崇拝について——ならびに「聖像衝突」』荒金直人訳、以文社、2017年(原著2009年) 物神崇拝への批判——聖像破壊——は、一度目は人間が物神を作っているのだとして権力の源を物神から人間へと移動させ、二度目は人間が…

ルイ・マラン『ユートピア的なもの』

ルイ・マラン『ユートピア的なもの』梶野吉郎訳、法政大学出版局、1995年(原著1973年) ユートピアの中立性が、ただ現実社会からの分離独立というだけのことであれば、それは共通のイデオロギーに取り込まれている。そうではないユートピアの中立性は、あれ…

デューリング

Élie During, "La compression du monde" (2009) プロトタイプ論のさらなる展開を追いかけるまえに、エリー・デューリングの別系列の現代芸術論も読んでみようと「世界の圧縮」を繙くと、こちらは時間論と密接に連動した話。 情報技術の進展によって現代社会…

ラトゥール

ブルーノ・ラトゥール「〈社会的なもの〉の終焉」(原著2002) 昨年『VOL』のエピステモロジー特集号(05)に翻訳されたブリュノ・ラトゥールのガブリエル・タルド論、ようやく眼を通してみると、先日読んだトマス・サラセーノ論よりも格段に理論的に突っ込ん…

ラトゥール

Bruno Latour, "Some Experiments in Art and Politics" (2011) ブリュノ・ラトゥールがトマス・サラセーノの作品(Galaxies forming along filaments, like droplets along the strands of a spider's web)をとりあげている短文があったので、友人たちと読…

ラトゥール

Bruno Latour, Politiques de la nature. (1999) 生態学的な発想がますます活況を呈している観があるこのところ、ラトゥールによるエコロジー論にも目を通しておきたい(生態学[écologie scientifique]というよりエコロジー[écologie politique]がメインの書…

ラトゥール、カロン、ロー

ブルーノ・ラトゥール「理性の知らないネットワーク――実験室、図書館、収集館」(原著1996) ミシェル・カロン、ジョン・ロー「個と社会の区分を超えて――集団性についての科学技術社会論からの視座」(原著1997) いまさら気づいたが、『科学を考える』(北…

トクヴィル(富永茂樹)

富永茂樹『トクヴィル』(2010) 名前しか知らなかったトクヴィル。「諸条件の平等」のパラドクスをめぐる思索のあとをたどってみると、ミシェル・フーコーやマルセル・ゴーシェなどの現代フランス政治哲学の背後にある厚みを痛感させられる。鎖の解体や部分…

 ブリュノ・ラトゥールによる

Iconoclash. Beyond the Image Wars in Science, Religion and Art, edited by Bruno Latour and Peter Weibel, Cambridge, Mass., MIT Press, 2002. Making Things Public. Atmospheres of Democracy, edited by Bruno Latour and Peter Weibel, Cambridge,…

希望学

東京大学社会科学研究所編『希望学[1]希望を語る』(2009) 社会科学に「希望」という視点を導入することの賭金は、一つには、社会問題の心理主義化ないし個体化という傾向(「自己決定」や「自己責任」はその端的なあらわれ)を逆手にとって、「希望」と…

宮崎広和、荒川修作(塚原史)

宮崎広和『希望という方法』(2009) 塚原史『荒川修作の軌跡と奇跡』(2009) 社会科学における「希望」という視点は、情念論の現代的な一変形のような気もして、なんとなく気になるところ。とはいえそれ以上に、方法として見られた「希望」は、その時間構造か…

 クロード・レヴィ=ストロース『はるかなる視線』(全2冊、三保元訳、みすず書房、1986年)

クロード・レヴィ=ストロース(Claude Lévi-Strauss, 1908-2009)の三つめの論文集(原著1983年)。『野生の思考』をはじめて手に取ったのがいつだったのかを思い起こすなら、レヴィ=ストロースの書物をそれなりに「読める」ようになるまで、かなりの長い…

 ミシェル・ド・セルトー『ルーダンの憑依』(矢橋透訳、みすず書房、2008年)

ミシェル・ド・セルトー(Michel de Certeau, 1925-1986)が、一七世紀にフランスはルーダンの修道院で起こった集団悪魔憑き事件について著した書物(原著1970年)。ジャンヌ・デ・ザンジュをはじめとするルーダンの修道女たちが、ある日から突発的に奇怪な…

 ブリュノ・ラトゥール『科学論の実在』(川崎勝、平川秀幸訳、産業図書、2007年)

ブリュノ・ラトゥール(Bruno Latour, 1947- )が、「主体−客体」の対を「複数の人間−複数の人間でないもの」の集合体へと置き換えながら、みずからの「実在論」哲学を展開した書物。「絶対的な客観性」と「社会や権力による構築性」との闘争が実は一致して…

 池上俊一『イタリア・ルネサンス再考 花の都とアルベルティ (講談社学術文庫)』(講談社学術文庫、2007年)

レオン・バッティスタ・アルベルティと15世紀フィレンツェの文化・社会とを互いに照応させながら論じた書物。「万能の天才」アルベルティについては、いつか自分なりに取り組んでみたいとかねてより思っているが、なかなか手を出せないでいる。この書物では…

 ピエール・フランカステル『形象の解読〈1〉芸術の社会学的構造 (1981年)』(西野嘉章訳、新泉社、1981年)

ピエール・フランカステル(Pierre Francastel, 1900-1970)による、美術史の方法論や芸術作品の在り方についての諸論考(原著は1965年)。フランカステルは、言うまでもなく「芸術の社会学」の先駆のひとりだが、今日「芸術の社会学」と聞いて思い起こされ…

 ピエール・レヴィ『ヴァーチャルとは何か?―デジタル時代におけるリアリティ』(米山優監訳、昭和堂、2006年)

ピエール・レヴィ(Pierre Lévy, 1956- )が、virtuelと呼ばれるものを、hétérogénèseという視点から広く人類学的に位置づけ、考察した書物。ひところジャン・ボードリヤールやポール・ヴィリリオなどの名前とともに流行ったヴァーチャル化による「現実の喪…

 イザベル・スタンジェール『科学と権力―先端科学技術をまえにした民主主義』(吉谷啓次訳、松籟社、1999年)

イザベル・スタンジェール(1949- )が、現代社会における科学をめぐる「政治」について論じた書物。現代社会において、科学を専門としない人々にとっては、科学の専門家が言うことを「黙って受け入れる」か「闇雲に反発する」かの二択しかないように見える…

 ロラン・バルト『現代社会の神話―1957 (ロラン・バルト著作集 3)』(下澤和義訳、みすず書房、2005年)

ロラン・バルト(1915-1980)が、現代フランスにおいて「あたりまえのこと」と思われているものを「神話」として分析した書物。「神話」は、なにかを覆い隠したり、あるいは顕示したりはしない。ただ、変形し、屈折する。屈折=妥協形成。のちには〈デノテー…