倫理
星野太『食客論』、講談社、2023年 人の群れは得も言われぬ魅惑と嫌悪を引き起こす。話すため、食べるため、寝るため、人々は互いに集まり、また互いを避ける。その複雑で曖昧な関係を、本書は「寄生 parasite」の概念でもって、そして寄生する「食客 parasi…
クロード・レヴィ=ストロース『人種と歴史』(新装版)荒川幾男訳、みすず書房、2008年(原著1952年) 人類文明の飛躍的発展となった新石器時代の革命と近代の産業革命は、一つの優れた文明からではなく、いくつもの文化の提携から起こったという。人類は、…
ジャン=ピエール・デュピュイ『ありえないことが現実になるとき』桑田光平、本田貴久訳、筑摩書房、2012年(原著2002年) 未然に防ごうとする防止策は、起こりうること、可能なことに対してしかなしえない。しかしながら、起こるはずのなかったこと、不可能…
ロージ・ブライドッティ『ポストヒューマン――新しい人文学に向けて』門林岳史監訳、フィルムアート社、2019年(原著2013年) ブライドッティによれば、現代の科学技術の発達と政治経済のグローバル化によって、個人主義的な主体性を人間に認めがたくなってき…
ミシェル・セール『人類再生』米山親能訳、法政大学出版局、2006年(原著2001年) セールは人類の文化と認識の発展の起源を、最初期の技術たる動物の家畜化(正確には人間と動物の「相互飼い慣らし」)に見いだす。その要となったのは、分節言語によらない外…
マッシモ・カッチャーリ『死後に生きる者たち』上村忠男訳、みすず書房、2013年(原著1980年、2005年) ニーチェを継いで語られる「死後に生きる者たち」の位置は、同時代性も、反時代性さえもなく、主体を幽霊のごとき絶対的な距離のうちに置く。「自分のい…
コーラ・ダイヤモンド、スタンリー・カヴェル、ジョン・マクダウェル、イアン・ハッキング、ケアリー・ウルフ『〈動物のいのち〉と哲学』(原著2008) まだぱらぱらと捲ってみたところだけれど、スタンリー・カヴェルをめぐる論集といった趣もあり、『観られ…
アルフォンソ・リンギス(Alphonso Lingis, 1933- )が、共有にもとづかない共同体の在り方を、「死」や「他者」との対面のうちに見いだそうとした書物。 リンギスは、おそらくエマニュエル・レヴィナスに倣い、同じものを共有することにもとづく「理性的〔…
アラン・バディウ(1937- )が、現在支配的な倫理の言説の欺瞞を苛烈に批判した書物。一方では、善意やユマニスム(人道とか人間性とか)などの名のもとに、〈同情者/犠牲者〉の権力構造を再生産し続ける「似非カント主義」(カント本人ではない)が批判さ…
生命倫理や環境倫理について問いなおした、いくぶん論争的な姿勢に貫かれた書物。生命の序列化や差別化(優生学的なものから「QOL」論的なものまで)を批判し、生の複数性をいかに肯定するかについての問いが、この書物全体に通底しているように思う。自己決…