The Passing +

岡本源太(美学)。書物を通過する軌跡。http://passing.nobody.jp/

歴史

ユベール・ダミッシュ『線についての論考』

Hubert Damisch, Traité du trait, Paris : Editions de la Reunion des Musées Nationaux, 1995. ルーチョ・フォンタナ《空間概念——期待》のシリーズは、一つのカンヴァスの物理的破損であると同時に、絵画というジャンル一般の概念的崩壊でもある。カンヴ…

ユベール・ダミッシュ『カドミウム・イエローの窓』

Hubert Damisch, Fenêtre jaune cadmium, Paris : Le Seuil, 1984. ダミッシュの哲学的な核心は、理論と歴史を駆動するアンフォルムとアナクロニズムへの洞察にあるように思うが、彼の仕事を美学美術史の伝統的な主題のなかに位置づけるなら、線と色、および…

ジョルジュ・ディディ=ユベルマン『アトラス、あるいは不安な悦ばしき知』

ジョルジュ・ディディ=ユベルマン『アトラス、あるいは不安な悦ばしき知』伊藤博明訳、ありな書房、2015年(原著2011年) アルベルティの物語からグリーンバーグの平面まで、部分を全体に統合していく美学的=認識論的モデルに対して、ディディ=ユベルマン…

ルイ・マラン『王の肖像』

ルイ・マラン『王の肖像』渡辺香根夫訳、法政大学出版局、2002年 (原著1981年) マランによれば、権力は表象としてしか存在しないという。というのも権力が成立するためには実際の物理的な暴力が潜在化され、さらに制度化されねばならず、表象こそがこの暴…

ルイ・マラン『ユートピア的なもの』

ルイ・マラン『ユートピア的なもの』梶野吉郎訳、法政大学出版局、1995年(原著1973年) ユートピアの中立性が、ただ現実社会からの分離独立というだけのことであれば、それは共通のイデオロギーに取り込まれている。そうではないユートピアの中立性は、あれ…

アーミテイジ

David Armitage, "What's the Big Idea? Intellectual History and the Longue Durée" (2012) このところ思想史に「長期持続(Longue durée)」の視点が回帰してきているとして、イギリスの政治思想史家デイヴィッド・アーミテイジが、新たな「観念のなかの…

アロア

Eammanuel Alloa, « Changer des sens. Quelques effets du “tournant iconique” » (2010) イメージ論についての泰斗から新進の論客までを集めた論文集の編集を、このところ矢継ぎ早にいくつも手懸けているエマニュエル・アロア。その見通しの良さが、本人の…

カントーロヴィチ(ブーロー)

アラン・ブーロー『カントロヴィッチ』(原著1990) 先頃『皇帝フリードリヒ二世』も翻訳されたエルンスト・カントーロヴィチの伝記を、アラン・ブーローが著したもの。当時の小説の筋などとの類比も交えてカントーロヴィチの歩みを大胆に再構成しているけれ…

ファルギエール

Particia Falguières, "The theatrum mundi in the Sixteenth century" (2005) パトリシア・ファルギエールはルネサンス哲学と現代美術の二つを軸に据えた研究をしているので、個人的になんとなく親近感を覚えるが(時間割の都合で授業を取れなかったのがい…

堀池信夫

堀池信夫『中国哲学とヨーロッパの哲学者』(1996-2000) ロジャー・ベーコンからモーリス・メルロ=ポンティまで、ヨーロッパの哲学者たちによる中国哲学受容を跡づけた労作。一挙に通読するには浩瀚すぎるため、まずはなじみのある16世紀あたりを読み散ら…

シュミット

カール・シュミット『ハムレットもしくはヘカベ』(原著1956) 「世界劇場」の発想一つ見るだけでも、ルネサンスにおける芸術(虚構)と政治(現実)の関係が一筋縄ではいかないのは当然のこと。カール・シュミットによるシェイクスピア『ハムレット』論を繙…

シャステル、ギンズブルグ

アンドレ・シャステル『グロテスクの系譜』(原著1988) カルロ・ギンズブルグ『歴史を逆なでに読む』(2003) ルネサンスのグロテスク模様の装飾を、ミシェル・ド・モンテーニュが自分の『エセー』に重ね合わせたのは有名な話だけれど、これがルネサンスの…

アラス

Daniel Arasse, Léonard de Vinci. Le rythme du monde. (1997) ダニエル・アラスが「運動」という観点からレオナルド・ダ・ヴィンチを論じたこの書物、レオナルドの受容史にも目配せしているところはアラスならではだけれど、それとともにエミール・バンヴ…

シュミット、ヘラー=ローゼン

カール・シュミット「海賊行為の概念」(原著1937) 同『陸と海と』(原著1942) ダニエル・ヘラー=ローゼン「万人の敵」(原著2009) 陸(ビヒモス)と海(レヴィヤタン)という「エレメント」の鬩ぎ合いから世界史を読み解いた古典的著作として名高いカー…

パノフスキー

エルヴィン・パノフスキー『イコノロジー研究』(原著1939) かなり久々にエルヴィン・パノフスキーの「時の翁」を読み返してみると、古典古代には基本的に「カイロス」と「アイオーン」の二つの時間概念しかなく、「クロノス」という時間概念は中世〜ルネサ…

カントーロヴィチ

エルンスト・カントーロヴィチ『王の二つの身体』(原著1957) 西洋中世に、永遠と時間との中間としての「永久〔aevum〕」概念が登場することによって、「法人」概念の成立が促されたという、カントーロヴィチのよく知られた話。このとき援用される「質料は…

アルキエ、シェニウー=ジャンドロン

フェルディナン・アルキエ『シュルレアリスムの哲学』(原著1955) ジャクリーヌ・シェニウー=ジャンドロン『シュルレアリスム』(原著1984) スタロバンスキーはけっこうざっくりとロマン主義の後継に位置づけていたシュルレアリスムの想像力論、実のところはも…

伊藤博明、スタロバンスキー

伊藤博明『ルネサンスの神秘思想』(1995/2012) Jean Starobinski, La relation critique. (1970/2001) イタロ・カルヴィーノによる要約がジャクリーヌ・シェニウー=ジャンドロンによる要約と微妙に違う(大筋では一緒だけれど)と思っていたジャン・スタロ…

伊藤博明、スタロバンスキー

伊藤博明『ルネサンスの神秘思想』(1995/2012) Jean Starobinski, La relation critique. (1970/2001) ジャン・スタロバンスキーの名高い想像力の概念史研究を読むかたわら、『ルネサンスの神秘思想』がめでたく文庫化されたので、復習とばかり再読中。宗教…

コッチャ

Emanuele Coccia, La vita sensibile. (2011) イメージ人類学とはまた別の流れで、エマヌエーレ・コッチャやダニエル・ヘラー=ローゼンやダヴィデ・スティミッリのように、一見して地味なくらい思想史に沈潜しながらイメージの問題系について大胆な哲学的展…

ポーコック

ジョン・ポーコック『徳・商業・歴史』(原著1985) ひきつづきポーコックの論文集。第二章に所収の「徳、権利、作法」を再読したら、こちらもようやく咀嚼できるようになってきているよう。政治に関して、「法」(神や自然も含め)をモデルにした思考に対し…

ポーコック、木村俊道

ジョン・ポーコック『マキァヴェリアン・モーメント』(原著1975) 木村俊道『文明の作法』(2010) 繙くたびに挫折するポーコックの書物。イタリアのヒューマニズムがイギリスの道徳哲学に引き継がれていった経緯についてようやく自分なりに関心にひっかけ…

ジルソン、ナルディ、川添信介

Étienne Gilson, Études de philosophie médiévale. (1921) Bruno Nardi, Saggi sull'aristotelismo padovano dal secolo XIV al XVI. (1958) 川添信介『水とワイン』(2005) いわゆる「二重真理説」の問題の広がりを確認しようとあれこれ繙いてみると、ジ…

コッチャ

Emanuele Coccia, "Physique du sensible. Penser l'image au Moyen Age" (2010) アヴェロエスのイメージ論で一書をものしているエマヌエーレ・コッチャならではと言うべきか、おもに鏡の経験を軸にしながら、西洋中世のイメージ論を縦横無尽に引用している…

齋藤晃

齋藤晃『魂の征服』(1993) トドロフとグリーンブラットを読んだときの記憶を掘り起こしつつ、ひきつづいてアメリカ大陸征服の経緯についてあれこれと。こうしたもつれあった思想の鬩ぎあいをたどっていると、過去の「残存」とか「救済」とかいう話は、「解…

トクヴィル(富永茂樹)

富永茂樹『トクヴィル』(2010) 名前しか知らなかったトクヴィル。「諸条件の平等」のパラドクスをめぐる思索のあとをたどってみると、ミシェル・フーコーやマルセル・ゴーシェなどの現代フランス政治哲学の背後にある厚みを痛感させられる。鎖の解体や部分…

グリーンブラット

スティーヴン・グリーンブラット『驚異と占有』(原著1988) 『マンデヴィルの旅』で語られている多様な風習や宗教への寛容さは、実は遠い他者に関するものであるかぎりで「寛容」というよりも「理論的好奇心」(ブルーメンベルク)であって、その証拠に近い…

クブラー

George Kubler, The Shape of Time. (1962) ジョージ・クブラーが展開するプライム・オブジェクトとレプリカの話、数学とか遺伝学とか文学理論とか比較文法とかのメタファーがあれこれ引っ張りだされるものの、率直なところやや中途半端な印象で、最終的には…

トドロフ、グリーンブラット

ツヴェタン・トドロフ『他者の記号学』(原著1982) スティーヴン・グリーンブラット『驚異と占有』(原著1988) グリーンブラットの文体はやはりトドロフに比して読むのに忍耐がいる。ともあれ、どちらの書物でも「翻訳」の問題がおおきく焦点化されていて…

トドロフ

ツヴェタン・トドロフ『他者の記号学』(原著1982) 「他者」の問題を考えるためにヨーロッパによるアメリカの「発見」を取りあげるというトドロフの手つきは、方法論的にはアガンベンの言う「パラダイム」に近しい印象があって、さらにはトドロフのストーリ…