The Passing

岡本源太(美学)。書物を通過する軌跡。http://passing.nobody.jp/

2020-01-01から1年間の記事一覧

沼野雄司『エドガー・ヴァレーズ』

沼野雄司『エドガー・ヴァレーズ』、春秋社、2019年 かつて初めて聴いたエドガー・ヴァレーズの《イオニザシオン》はまったくの支離滅裂な音の羅列に思えて困惑したが、あるときそれが自在に音の躍動する一つの空間として立ち現れて、爾来、ヴァレーズの音楽…

松村圭一郎『うしろめたさの人類学』

松村圭一郎『うしろめたさの人類学』、ミシマ社、2017年 社会的紐帯としての感情の共感作用を起点として、市場(交換)と国家(再配分)のあいだに社会(贈与)の空間を開くことが試みられる。もっとも、援助の実践に示されるごとく、市場と国家と社会は截然…

中井正一『日本の美』

中井正一『日本の美』、中公文庫、2019年(初版1952年)[併録の『近代美の研究』の初版は1947年] 「思想的危機における芸術ならびにその動向」(1932)では、文化の機械化と大衆化が思想の危機をもたらしたという通説が、近代における学問の専門化と職業化…

中井正一『美学入門』

中井正一『美学入門』、中公文庫、2010年(初版1951年) 中井正一とヴァルター・ベンヤミンとの親近性は、誰しもすぐさま気づかずにはいられない――脱落の美とアウラの凋落、コプラの欠如とショック作用、基礎射影と視覚的無意識、謬りを踏みしめての現在と今…

ロージ・ブライドッティ『ポストヒューマン』

ロージ・ブライドッティ『ポストヒューマン――新しい人文学に向けて』門林岳史監訳、フィルムアート社、2019年(原著2013年) ブライドッティによれば、現代の科学技術の発達と政治経済のグローバル化によって、個人主義的な主体性を人間に認めがたくなってき…

ミシェル・セール『人類再生』

ミシェル・セール『人類再生』米山親能訳、法政大学出版局、2006年(原著2001年) セールは人類の文化と認識の発展の起源を、最初期の技術たる動物の家畜化(正確には人間と動物の「相互飼い慣らし」)に見いだす。その要となったのは、分節言語によらない外…

ミシェル・セール『作家、学者、哲学者は世界を旅する』

ミシェル・セール『作家、学者、哲学者は世界を旅する』清水高志訳、水声社、2016年(原著2009年) セールによれば、クロード・レヴィ=ストロースが「野生の思考」と捉え直したようなトーテミズムは、分類操作の基本原理として、自然科学の起源にある。それ…

ポール・ヴァレリー『ドガ ダンス デッサン』

ポール・ヴァレリー『ドガ ダンス デッサン』清水徹訳、筑摩書房、2006年(原著1938年) ヴァレリーが歴史や伝記に向ける疑義は、本を読みながらの落描きのごとき気まぐれで途切れ途切れの文体によっても体現されているだろう。偶然とそれへの応答を直線的に…

ジャック・ランシエール『解放された観客』

ジャック・ランシエール『解放された観客』梶田裕訳、法政大学出版局、2013年(原著2008年) ランシエールは、人間の多面性、現実の多層性をつねに注視している。それゆえに、あらゆる二項対立をその可能性の条件に遡って問い直し、対立が反転したり移動した…

ジャック・ランシエール『感性的なもののパルタージュ』

ジャック・ランシエール『感性的なもののパルタージュ』梶田裕訳、法政大学出版局、2009年(原著2000年) 歴史の終焉論から芸術の終焉論へと、思想の力をめぐる論争の場所が移動していくのにあわせて、ランシエールの研究領域も労働・歴史・文学・芸術へと拡…

フランソワ・ヌーデルマン『ピアノを弾く哲学者』

フランソワ・ヌーデルマン『ピアノを弾く哲学者』橘明美訳、太田出版、2014年(原著2008年) ジャン=ポール・サルトル、フリードリヒ・ニーチェ、ロラン・バルトがどのようにピアノを弾いていたのかをあとづけながら、ヌーデルマンはその非言語的で身体的な…

平倉圭『かたちは思考する』

平倉圭『かたちは思考する』、東京大学出版会、2019年 形象の思考と力とが、形象を布置において理解することで、統合される。布置(dispotision)は構成(composition)に比して分散的であり、巻込の作用によって力を揮い、思考を広げる。ホワイトヘッドから…

平倉圭『ゴダール的方法』

平倉圭『ゴダール的方法』、インスクリプト、2010年 すでにある思想を表明したのではなく、映像と音声そのものによって思考しているゴダールの映画を把握するには、作品自体から分析方法を引き出さねばならない。ゴダールの編集操作の手つきが分析方法として…