The Passing

岡本源太(美学)。書物を通過する軌跡。http://passing.nobody.jp/

言語

吉田健一『時間』

吉田健一『時間』、講談社文芸文庫、1998年(初版1976年) 時間がたつのを感じることは、たんに時計が動くのを見ることではなく、今ここにいる自分と自分のいる今ここの世界の変化を認識することそのものだという。これは生きて親しむことと別ではない。吉田…

吉田健一『ヨオロッパの世紀末』

吉田健一『ヨオロッパの世紀末』、岩波文庫、1994年(初版1970年) 吉田健一はヨーロッパ文明の完成を18世紀に見る。それは18世紀に、古代のギリシア・ローマ文明とは異なるその性格が明確になり、当然のものになったということだ。ギリシア・ローマとヨーロ…

クロード・レヴィ=ストロース『野生の思考』

クロード・レヴィ=ストロース『野生の思考』大橋保夫訳、みすず書房、1976年(原著1962年) 有用性や実用性ではなく、知的な快と好奇心のほうが人間にとって根源的なものだという示唆が、本書の随所にちりばめられている。新石器時代の技術革新の数々が人類…

ユベール・ダミッシュ『カドミウム・イエローの窓』

Hubert Damisch, Fenêtre jaune cadmium, Paris : Le Seuil, 1984. ダミッシュの哲学的な核心は、理論と歴史を駆動するアンフォルムとアナクロニズムへの洞察にあるように思うが、彼の仕事を美学美術史の伝統的な主題のなかに位置づけるなら、線と色、および…

マッシモ・カッチャーリ『死後に生きる者たち』

マッシモ・カッチャーリ『死後に生きる者たち』上村忠男訳、みすず書房、2013年(原著1980年、2005年) ニーチェを継いで語られる「死後に生きる者たち」の位置は、同時代性も、反時代性さえもなく、主体を幽霊のごとき絶対的な距離のうちに置く。「自分のい…

古田徹也『言葉の魂の哲学』

古田徹也『言葉の魂の哲学』、講談社選書メチエ、2018年 概念の実体化への批判と、言葉の立体的理解への洞察が、ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタインとカール・クラウスの言語哲学から汲み取られていく。言葉以前のものを実体化して、言葉をその代理と見なす…

星野太『崇高の修辞学』

星野太『崇高の修辞学』、月曜社、2017年 感性に関わる「美学的崇高」の背後に、言葉に関わる「修辞学的崇高」が発掘される。これはアイステーシスの根底にすでにロゴスがあるということなのだろうか。 * 偽ロンギノスは、過去の崇高な作品に触れることがみ…

ルイ・マラン『ユートピア的なもの』

ルイ・マラン『ユートピア的なもの』梶野吉郎訳、法政大学出版局、1995年(原著1973年) ユートピアの中立性が、ただ現実社会からの分離独立というだけのことであれば、それは共通のイデオロギーに取り込まれている。そうではないユートピアの中立性は、あれ…

ルイ・マラン『絵画の記号学』

ルイ・マラン『絵画の記号学』篠田浩一郎、山崎庸一郎訳、岩波書店、1986年(原著1971年) 所収の論考「絵画記号学原理」で、マランはタブローの空間を「ユートピア」だと形容している。タブローは、枠内に観者の視点と視線を組織化する行動の実存的空間、生…

カントーロヴィチ(ブーロー)

アラン・ブーロー『カントロヴィッチ』(原著1990) 先頃『皇帝フリードリヒ二世』も翻訳されたエルンスト・カントーロヴィチの伝記を、アラン・ブーローが著したもの。当時の小説の筋などとの類比も交えてカントーロヴィチの歩みを大胆に再構成しているけれ…

風間喜代三、アガンベン

風間喜代三『ことばの生活誌』(1987) Giorgio Agamben, Signatura rerum. Sul metodo. (2008) 風間喜代三『ことばの生活誌』、どうしてこれまでこれを読んでいなかったのか。あの浩瀚なバンヴェニストに挑戦しては挫折していた身には、滅法面白い一冊。哲…

風間喜代三、アガンベン

風間喜代三『印欧語の故郷を探る』(1993) Giorgio Agamben, Signatura rerum. Sul metodo. (2008) インド=ヨーロッパ祖語にかぎらず、おおよそ「起源」を求めるときにまず第一に躓きとなるのは、いったい「共同体」なる概念をどのようなものとして理解す…

風間喜代三、アガンベン

風間喜代三『言語学の誕生』(1978) Giorgio Agamben, Signatura rerum. Sul metodo. (2008) 比較文法におけるアナロジーの用い方、その恣意性を回避するために実際の歴史的状況を参照するというやり方は、なんだかヴァールブルクのイコノグラフィーにどこ…

ノヴァーリス、風間喜代三

ノヴァーリス「断章と研究」(1799-1800) 風間喜代三『言語学の誕生』(1978) ノヴァーリスが最晩年の「断章と研究」に書き残したスピノザについての言葉を調べるべく、ひとまず邦訳であたりをつけようと手に取った二つの『ノヴァーリス全集』。牧神社版(…

アガンベン

Giorgio Agamben, Signatura rerum. Sul metodo. (2008) ひきつづいてアガンベン『事物のしるし』。チョムスキーの「生成文法」に言及しているのは、なんともおざなりなその言及の仕方を見るにつけ、たんに「比較文法」との語呂合わせをしたかったのではない…

 河野哲也『環境に拡がる心―生態学的哲学の展望 (双書エニグマ)』(勁草書房、2005年)

生態学的な存在論の視点から、身体、他人、言語、技術、動物、自由を捉えなおした書物。「心」なるものをそれ自体として取りだして考察することがいかに問題があるかを、前著『エコロジカルな心の哲学』にひきつづき明晰かつ説得的に論じていて面白い。内的…

 中山康雄『共同性の現代哲学―心から社会へ (双書エニグマ)』(頸草書房、2004年)

言語行為論や心の哲学の知見から、共同性について分析した書物。コミュニケーションや会話を、コードモデルや推論モデルではなく、一連の行為の連鎖として分析するというのは重要な視点だろう。だが、〈心/身体〉〈自/他〉〈個人/集団〉といった区別がや…