The Passing

岡本源太(美学)。書物を通過する軌跡。http://passing.nobody.jp/

2005-06-01から1ヶ月間の記事一覧

 市野川容孝『身体/生命 (思考のフロンティア)』(岩波書店、2000年)

生死の概念が西洋の医学においてどのように捉えられてきたかを、その政治的な側面を視野に入れつつ辿った書物。「西洋」と一語でいったところでその内実は多様で複合的であり、決して一枚岩ではないため、当然「生死」の概念も多様な変遷を経ている。脳死や…

 水島茂樹『“解放”の果てに―個人の変容と近代の行方』(ナカニシヤ出版、2003年)

とりわけジョン・メイナード・ケインズとマルセル・ゴーシェを主な導きの糸として、現代社会を「経済」と「他者」から解放されつつある社会として論じた書物。啓蒙が進めば進ほど人は成熟できなくなっていく。このパラドクスは啓蒙に内在的な論理の帰結であ…

 河野哲也『環境に拡がる心―生態学的哲学の展望 (双書エニグマ)』(勁草書房、2005年)

生態学的な存在論の視点から、身体、他人、言語、技術、動物、自由を捉えなおした書物。「心」なるものをそれ自体として取りだして考察することがいかに問題があるかを、前著『エコロジカルな心の哲学』にひきつづき明晰かつ説得的に論じていて面白い。内的…

 ジョルジュ・カンギレム『生命の認識 (叢書・ウニベルシタス)』(杉山吉弘訳、法政大学出版局、2002年)

ジョルジュ・カンギレム(1904-1995)による、生物学・医学における生気論の問題系などを扱った論文集。なによりもまず、「生気論(vitalisme)」についての特異な解釈が強く印象に残る。カンギレムによれば、生気論とは一般にそう思われているような神秘主…

 ベネデット・クローチェ、ルイジ・パレイゾン『エステティカ―イタリアの美学 クローチェ&パレイゾン』(山田忠彰、尾河直哉編訳、ナカニシヤ出版、2005年)

ベネデット・クローチェ(1866-1952)とルイジ・パレイゾン(1918-1991)の美学論をそれぞれふたつづつ翻訳して収録した書物。さすが近代美学の最高峰クローチェだけあって、美の純粋な在り方をこの上なく明晰に描きだしていく。芸術の美は快楽とも道徳とも…

 Jean-Philippe Antoine, Six rhapsodies froides sur le lieu, l'image et le souvenir, Desclée de Brouwer, Paris, 2002.

ジャン=フィリップ・アントワーヌ(1957- )による『場、イメージ、思い出についての六つの冷たい狂詩曲』から、フロイトの精神分析と古代の記憶術との照応関係を論じた第一章「記憶の名をつかむ――記憶術のイメージ」。古代以来の記憶術は、「記憶しておき…

 Georges Didi-Huberman, Être crâne. Lieu, contact, pensée, sclupture, Minuit, Paris, 2000.

ジョルジュ・ディディ=ユベルマン(1953- )によるジュゼッペ・ペノーネ論『頭蓋になること』。ディディ=ユベルマンはペノーネの作品の根幹にdéveloppementを見いだす。このdéveloppementは視覚的には「現像」(写真などの)という意味であり、時間的には…