ジャック・ランシエール『感性的なもののパルタージュ』
ジャック・ランシエール『感性的なもののパルタージュ』梶田裕訳、法政大学出版局、2009年(原著2000年)
歴史の終焉論から芸術の終焉論へと、思想の力をめぐる論争の場所が移動していくのにあわせて、ランシエールの研究領域も労働・歴史・文学・芸術へと拡張してきた。この書物の出版から20年になる現在では、真理の終焉論が花盛りか。この移動はむしろ近代というものの閉域を示しているのかもしれない。ランシエールが、倫理的体制・表象的体制・美学的体制の区別によって示そうとしているのも、論争の場所がどこに移動しようとも同じことの繰り返しになるという概念の閉域かもしれない。そしてそのこと自体が政治的なのだ、と。
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人間がアリストテレスの言うように政治的動物であるのは、なによりも言葉をもっているからだが、ランシエールはそれをフィクションの能力と捉えて、人間を文学的動物としても語る。フィクションは虚偽ではない。芸術が虚構で政治が現実だという話ではない。フィクションとは現実を構成している記号とイメージの再配置であり、見えるものと言えることとのある特定の関係をつくりだすものであって、その意味で知識も政治も芸術もすべてフィクションをつくりだす。フィクションはまた、ランシエールによれば、与えられた運命から逸れて逃れるためのものでもある。