The Passing

岡本源太(美学)。書物を通過する軌跡。http://passing.nobody.jp/

 クロード・レヴィ=ストロース『はるかなる視線』(全2冊、三保元訳、みすず書房、1986年)

はるかなる視線〈1〉はるかなる視線〈2〉

クロード・レヴィ=ストロース(Claude Lévi-Strauss, 1908-2009)の三つめの論文集(原著1983年)。

『野生の思考』をはじめて手に取ったのがいつだったのかを思い起こすなら、レヴィ=ストロースの書物をそれなりに「読める」ようになるまで、かなりの長い時間が必要だったことになる。このところずっと『神話論理』(全四巻)を読み進めつつも、レヴィ=ストロースの関心領域を見渡すのにちょうど良さそうなこの書物も紐解いてみる。

いつもながら、芸術についての論考群にはあまり惹かれないものの、「構造主義生態学」は、とりわけレヴィ=ストロースの(大胆な)発想と(慎重な)方法が凝縮されているようで、面白く読む。ほかに冒頭の二篇「人種と文化」と「民族学者と人間の条件」でもいちだんと大きな見取り図が描かれているが、「自然」と「文化」とを対比的に捉えるわけでもなく、まして一方を他方に還元することもなく、むしろ「文化」を〈自然/人為〉(あるいは〈本能/理性〉)のあわいに位置づけて記述していく発想(同じ「構造主義者」のセールならば「出ダーウィニズム」として語るだろう発想)は、あいもかわらず示唆に富む。

ここには、「分類」という視点から可感的なものと可知的なものの連続性を導き出した『野生の思考』のいわば「根」にあるものを、見いだせるかもしれない。とはいえ、この発想に忠実でいようとするなら、結局のところ、記述に徹するという方法をとるほかないだろう。『神話論理』の圧倒的な厚みは言うにおよばず、雑多とも見えるこの書物の領域の広さは、そのような方法論的な帰結であるようにも思う。