The Passing

岡本源太(美学)。書物を通過する軌跡。http://passing.nobody.jp/

 人間と動物と

  • Gilbert Simondon, Deux leçon sur l'animal et l'homme. Paris : Ellipses, 2004.
  • Lignes, n°28 (HUMANITÉ / ANIMALITÉ), 2009.
  • 現代思想』2009年7月号(特集「人間/動物の分割線」)

「人間も動物の一種だ」という言葉にはもはやほとんどだれも驚かないどころか、なぜこれほどまでに当然のことをいまさら口に出しているのかと、疑念すら呼び覚ますかもしれない。けれども、人間という動物とそのほかの動物との関係、その連続性と非連続性のこととなると、根拠のたしかな主張はほとんど見つけることができないように思う。そのことをあらためて感じるきっかけともなった、一つの書物と二つの雑誌。
なにもジャック・デリダジョルジョ・アガンベンが「人間と動物」という主題を活性化させたわけではないにせよ(それは、たとえば、伊勢田哲治動物からの倫理学入門』を少し紐解くだけでもすぐにわかることだろう)、二冊の雑誌はどちらも彼らの影がとくにちらついているようにも感じる。けれど、それよりもなによりも関心を惹いたのは、往々にして変身や流転の主題が顔を覗かせることだった。いちばん明瞭なのはボヤン・マンチェフの思索のなかではあるが、ジルベール・シモンドンやドミニク・レステルのように、自然科学や社会科学の領域での成果から議論を立ち上げようとしているひとの思索のなかにも、この主題が見え隠れするのを面白く思う。

Gilbert Simondon, Deux leçon sur l'animal et l'homme. Paris : Ellipses, 2004.

ジルベール・シモンドン『動物と人間についての二つの講義』(2004)


人間と動物との関連をどのように考えるべきだろうか。心理学などの人間科学は、同時に動物科学ではありえないのだろうか。この問いは、驚くべきものに、それどころか不遜なものに見えるかもしれない。けれども、動物的生という概念の展開を明らかにすることなしには、近代心理学およびそれが生物学ととりもつ関連に生じたことは理解できない。動物的生という概念は、人間性の概念と連動しているのである。

ジルベール・シモンドンは、動物的生の簡潔な歴史を、古代から一七世紀まで素描する。このとき呼び出されるのは、ソクラテスプラトンアリストテレスデカルトといった哲学におけるもっとも偉大な人物たちだけではない。哲学者たちとそれほど交流のない著作家たち、アッシジの聖フランチェスコモンテーニュ、ボシュエ、ラ・フォンテーヌなども呼び出される。こうしてわかるのは、人間と動物の関連という問題のもっている次元が、たんに認識論的なものなのではなく、倫理的、それどころか宗教的でもあり、また形而上学的でもあるということだ。

  • 解題(ジャン=イヴ・シャトー)
    • 心理学にとっての争点
    • 問題の倫理的・宗教的な争点
    • 観念史とその全体の弁証法
    • 生命と心理の個体発生に照らし合わせた動物と人間


「動物と人間についての二つの講義」

Lignes, n°28 (HUMANITÉ / ANIMALITÉ), 2009.

『リーニュ』誌第28号(特集「人間性/動物性」)


動物についての反省は、哲学の領域で近年おおくの展開を見た(J. Derrida, L’animal que donc je suis, 2006 ; E. de Fontenay, Le Silence des bêtes, 1999 ; M. Surya, Humanimalités, 2004 ; J.-C. Bailly, Le Versant animal, 2007)。本号では、探求の対象を動物性それ自体ではなく、人間性と動物性とがとりもつ関連に定めている。ここに収録されたテクストの著者たちが共有する信念とは、動物を考えることは人間を考えることでもあり、人間を別様に考えることでもある、というものだ。同様に、もはや動物もともに考えるのでなければ人間を考えようとすることはできないだろう、というものでもある。

  • Michel Surya, Préambule
  • Frédéric Neyrat, L’homme labyrinthe
  • Aïcha Liviana Messina, « Publiez-moi, publiez-moi car je ne suis pas une bête »
  • Mathilde Girard, «Humanimalités» – métamorphoses – comment meurt-on  ?
  • Jacob Rogozinski, Sur la rampe d’abattage
  • Boyan Manchev, La liberté sauvage. Hypothèses pour une politique animale
  • Yves Dupeux, Ontologie de l’animal, et au-delà
  • Ginette Michaud, Sur une note serpentine
  • Orietta Ombrosi, Le miserere des bêtes. Max Horkheimer et T.W. Adorno face à l’animalité
  • Danielle Cohen-Levinas, L’exception animale. Le bestiaire de Zarathoustra entre autres figures de métamorphose et de substitution...

現代思想』2009年7月号(特集「人間/動物の分割線」)

  • 人間/動物の分割線
    • 小泉義之「人間の消失、動物の消失」
    • 市野川容孝「動物の人間化、人間の動物化――バイオポリティクスの一断面」
    • 黄鎬徳「帝国の人間学あるいは植民地動物の鋳物工場――「非人」の地、後期植民地からの断想」(全雪鈴訳)
    • 的射場瑞樹「ただ、生きて在るために――動物の解放と動物化される人間」
  • 動物の政治学
    • ジャコブ・ロゴザンスキー「屠殺への勾配路の上で」(西山雄二訳)
    • ボヤン・マンチェフ「野生の自由――動物的政治のための仮説」(馬場智一訳)
  • 人間性への審問
  • 人間以後の動物たち
    • 澤野雅樹「種と集団の個体性に関する覚え書き」
    • 千葉雅也「トランスアディクション――動物‐性の生成変化」
  • 共生へのヴィジョン
    • ドミニク・レステル「ハイブリッドな共同体」(大橋完太郎訳)
    • 高橋さきの「動物と一緒に《働く》ということ――ハラウェイの見た労働する動物たち」