The Passing

岡本源太(美学)。書物を通過する軌跡。http://passing.nobody.jp/

多木浩二

個人的にはむかしアンゼルム・キーファー論を面白く読んだ記憶のある多木浩二によるバーネット・ニューマン論を繙いてみると、これまた面白く読む。現象学や崇高論やカバラーを援用した解釈に禁欲的なところに親近感が湧くが(というのも安易な援用は作品を既知の思想のたんなる図解にしてしまい、結局のところ作品を無用のものにしてしまうから)、そのうえでなおニューマンの作品が「神話」や「歴史」の問題と切り結ぶ点を剔抉しているところは流石の一言。この点を剔抉したあとでなら、もういちどカバラーや崇高論に立ち戻ることも生産的になりうるようにも思う(すでにあとがきで示唆されているが)。それだけに、「暴力の無化としての崇高」という論点がそれ以上展開されないまま残されてしまったことは残念でもある。