The Passing

岡本源太(美学)。書物を通過する軌跡。http://passing.nobody.jp/

コッチャ

  • Emanuele Coccia, "Physique du sensible. Penser l'image au Moyen Age" (2010)

アヴェロエスのイメージ論で一書をものしているエマヌエーレ・コッチャならではと言うべきか、おもに鏡の経験を軸にしながら、西洋中世のイメージ論を縦横無尽に引用している。客観でも主観でもないその媒介項としてのイメージ、というわかりやすい図式から出発するものの、イメージとは固有の場の外にあるもので、純粋に可感的なものに還元されており、すべての事物の共通本性たる「変形されずに受動する受容の力能」によって受け取られることでイメージが形成される(だから人間の意識だけでなく、鏡も水面も大理石もイメージを形成できる)という話につながり、最終的にイメージの二重の客観的無意識が指摘される。
アンリ・ベルクソンのイメージ論が思想史的に見てけっして突飛なものでないことを再認識させられるが、ともあれコッチャの狙いとしては、イメージをただ知覚や認識の結果としてのみ捉える見解に反対して、認識される以前のイメージ(可感的なもの)の存在を素描することにあるよう。そうなると個人的には、主観と客観の媒介項というような話よりも、合わせ鏡のようにイメージが連鎖し循環していくさまを考えてみたくなるところ。