The Passing

岡本源太(美学)。書物を通過する軌跡。http://passing.nobody.jp/

カヴェル

  • Stanley Cavell, The World Viewd. (1971/79)

スタンリー・カヴェルの『観られた世界』、おもに映画と他ジャンルとの比較を頼りにして分析が進んでいくが、その分析の進展にあわせて分析の道具立てそれ自体も練り上げていくあたり、ふとロラン・バルトの手つきを思わせたりもする。バザン(とパノフスキー)の議論を出発点に、イメージ(映像)と実在の関係という「映画の存在論」を真正面から扱いつつ、どうやらそれがはしがきや増補版序文で示唆されている「記憶」の問題に繋がっていきそうなあたりも、バルトに通じるように思う(『明るい部屋』よりもまえに書かれた書物だが)。
と同時に、素朴実在論を断念したうえで記憶という経路からイメージの実在性を理論化しようという企図を見るにつけ、ベルクソン的な問題機制の強固さ(あるいは先駆性)を感じてしまったりもする。この場合、すべては「記憶」というものの存在論的なステータスにかかってくる。カヴェルはどう考えているのか、ひとまず読み進めてみたいところ。