- スティーヴン・グリーンブラット『驚異と占有』(原著1988)
『マンデヴィルの旅』で語られている多様な風習や宗教への寛容さは、実は遠い他者に関するものであるかぎりで「寛容」というよりも「理論的好奇心」(ブルーメンベルク)であって、その証拠に近い他者たるユダヤ人に対する悪意が書物の端々にあらわれている――というグリーンブラットの指摘はなるほどと思わせる。好奇心自体がこの時期に微妙な位置づけにあることはおくとして(グリーンブラット自身も指摘していることだし)、「寛容」というのは自由思想から啓蒙主義あたりの重要な思想的争点なだけに、その内実によくよく注意したいところ。