The Passing

岡本源太(美学)。書物を通過する軌跡。http://passing.nobody.jp/

 池上俊一『イタリア・ルネサンス再考 花の都とアルベルティ (講談社学術文庫)』(講談社学術文庫、2007年)

イタリア・ルネサンス再考 花の都とアルベルティ (講談社学術文庫)


レオン・バッティスタ・アルベルティと15世紀フィレンツェの文化・社会とを互いに照応させながら論じた書物。

「万能の天才」アルベルティについては、いつか自分なりに取り組んでみたいとかねてより思っているが、なかなか手を出せないでいる。この書物ではとくに『家族論』を深く読み込みながら、アルベルティと15世紀フィレンツェの概観がなされていく。いくぶん平板な概略に徹してしまっているところもなくはないが(とくに芸術を扱った第三章は、一昔前の辞典の記述をまとめたかのような、無難といえば無難だが、あまり発見的とも的確とも思えない記述に終始している感がある)、第五章での『家族論』の読み込み、個別性と模倣や韜晦についての議論などはとても面白く思う。

「古き良き大家族」へのノスタルジーにとらわれた反動的でイデオロギー的な書物、とも見られがちな『家族論』は、当時の「家族」の変貌(「血」や「土地」の絆による一極集中的な大家族から、「名」や「記憶」の絆による分散ネットワーク的な家族へ)という社会史的な視点のうちに置きなおすならば、むしろ「友愛」を軸にした新たな人間関係の在り方を模索した書物としてたちあらわれてくる、という。アルベルティが『絵画論』のなかでも「友愛」に対して思いがけない言及をおこなっていることを思うと、アルベルティにおける「友愛」の重要さが強く印象づけられるが、この「友愛」がまた「自然」と結び合わされているところにも関心を惹かれる。「模倣」の問題でもまた「自然」が中核にあることを考慮すると、アルベルティにおいて多様性と普遍性の結節点になっている「自然」という概念の内実を、自明なものとはせずに、より深めていく必要性を強く感じさせられる。