The Passing

岡本源太(美学)。書物を通過する軌跡。http://passing.nobody.jp/

 マルク・リシール『身体―内面性についての試論』(和田渡、加國尚志、川瀬雅也訳、ナカニシヤ出版、2001年)

身体―内面性についての試論


マルク・リシール(Marc Richir, 1943- )が、身体からの/への「超過」という視点から、身体の現象学、心身問題、身体の思想史などを簡略に論じたもの。

リシールは、「心」を実体化することなく、身体からの/への多様な「超過」の在り方として、感覚、情緒、情感性、情念、思考などの「内面性」を捉えなおしていく。簡潔な記述のために、率直に言って十分に理解しきれないところも多々あるが、この「超過」という視点からの考察は魅力的なもののように思う。一見したところエルンスト・カッシーラーにも通じるかのような「象徴」の理論を素描するリシールだが、とはいえ「超過」という視点によって二元的な分断を回避していく(〈客観的・物理的身体/生きた・現象学的身体〉という対比が多少目につかないこともないが、これも、後者が前者を包摂する――あるいは前者から後者が超過する?――ため、けっして分断しているわけではない)ところに、リシールの象徴制度理論の特徴があるといえるだろうか(もちろん、象徴化を超過する残余につねに眼差しを向けていることのほうが特徴的ではあるだろうにしても、そこばかりに着目してしまうと、リシールの思考を否定神学の単純な焼き直しのようなものと見誤ってしまう可能性があるだろう)。個人的には、この「超過」という事態を、〈図/地〉や〈顕れ/隠れ〉というような枠組み(ときにリシールの考察にほのめかされているかに見える)とは別の枠組みで論じることを試みたいところだが。