The Passing

岡本源太(美学)。書物を通過する軌跡。http://passing.nobody.jp/

 ジャン・スタロバンスキー『自由の創出―十八世紀の芸術と思想』(小西嘉幸訳、白水社、1982年/新装版1999年)

自由の創出―十八世紀の芸術と思想


ジャン・スタロバンスキー(1920- )*1が、18世紀フランスの芸術と思想を「自由」をめぐる問題系として読み解いた書物。

啓蒙主義ロココ趣味、崇高と優雅が同居する18世紀フランスは、なによりも感情と運動を重視し、そこから互いに相容れないようなさまざまな動向が生まれてくるのだという。未完成の美学、断崖絶壁や嵐の海、廃墟への嗜好、祭祀や演劇における一体感への希求、ピュグマリオン神話の流行、身振りと動きゆえの歴史画の重視、理念の貯蔵庫ではなく生成変化としての自然、幾何学よりも博物学(自然史)の隆盛、二重化される精神、……。ジョルジュ・ディディ=ユベルマンも言うように、「同時代性」なるものを想定することがひとつの独断に過ぎず、多様であること(「アナクロニック」であること)が当然なのだとしても、スタロバンスキーが描きだしていく18世紀の多様性は、さながら万華鏡のように魅惑し、幻惑する。

*1:スイスでは「スタロビンスキー」と発音されるのが一般的らしいが、本人はフランス風に「スタロバンスキー」と発音されることを望んでいるとの旨が、『絵画を見るディドロ (叢書・ウニベルシタス)』の訳者あとがきに記してあるので、ここでもさしあたり「スタロバンスキー」と記しておく。