The Passing

岡本源太(美学)。書物を通過する軌跡。http://passing.nobody.jp/

カントーロヴィチ

エルンスト・カントーロヴィチ『王の二つの身体』(原著1957) 西洋中世に、永遠と時間との中間としての「永久〔aevum〕」概念が登場することによって、「法人」概念の成立が促されたという、カントーロヴィチのよく知られた話。このとき援用される「質料は…

グラント

Iain Hamilton Grant, Philosophies of Nature after Schelling. (2006) 思弁的実在論の「ブルーノ問題」の発端になったイエイン・ハミルトン・グラント『シェリング以後の自然哲学』をぱらぱらとめくってみると、カント主義への批判を軸にしているあたり、…

 岡本源太『ジョルダーノ・ブルーノの哲学――生の多様性へ』、月曜社、2012年

→ 書きました。よろしければご覧のほどを。 【目次】 はしがき 序章 ジョイス――憐れみの感覚 第一章 ディオ・デ・ラ・テッラ――人間と動物 第二章 セラピス――感情と時間 第三章 コヘレト――無知と力能 第四章 ペルセウス――善悪と共生 第五章 ヘレネ――芸術と創…

鈴木雅雄

鈴木雅雄『シュルレアリスム、あるいは痙攣する複数性』(2007) シュルレアリスムの理論と実践(とりわけ実践)をさながら新たな共同体論として読み解いていく趣の書物。いっさいの超越的な審級を廃したうえでいかにして共同する(ともにある)ことができるか…

アルキエ、シェニウー=ジャンドロン

フェルディナン・アルキエ『シュルレアリスムの哲学』(原著1955) ジャクリーヌ・シェニウー=ジャンドロン『シュルレアリスム』(原著1984) スタロバンスキーはけっこうざっくりとロマン主義の後継に位置づけていたシュルレアリスムの想像力論、実のところはも…

伊藤博明、スタロバンスキー

伊藤博明『ルネサンスの神秘思想』(1995/2012) Jean Starobinski, La relation critique. (1970/2001) イタロ・カルヴィーノによる要約がジャクリーヌ・シェニウー=ジャンドロンによる要約と微妙に違う(大筋では一緒だけれど)と思っていたジャン・スタロ…

伊藤博明、スタロバンスキー

伊藤博明『ルネサンスの神秘思想』(1995/2012) Jean Starobinski, La relation critique. (1970/2001) ジャン・スタロバンスキーの名高い想像力の概念史研究を読むかたわら、『ルネサンスの神秘思想』がめでたく文庫化されたので、復習とばかり再読中。宗教…

ラトゥール

ブルーノ・ラトゥール「〈社会的なもの〉の終焉」(原著2002) 昨年『VOL』のエピステモロジー特集号(05)に翻訳されたブリュノ・ラトゥールのガブリエル・タルド論、ようやく眼を通してみると、先日読んだトマス・サラセーノ論よりも格段に理論的に突っ込ん…

コッチャ

Emanuele Coccia, La vita sensibile. (2011) イメージ人類学とはまた別の流れで、エマヌエーレ・コッチャやダニエル・ヘラー=ローゼンやダヴィデ・スティミッリのように、一見して地味なくらい思想史に沈潜しながらイメージの問題系について大胆な哲学的展…

デスコラ

Philippe Descola, "Ontologie des images." (2008-2009) コレージュ・ド・フランスでイメージ論や風景論の講義をしたり、ケ・ブランリー美術館の『イメージの製造』展を監修してみたり、このところいわゆる「イメージ人類学」の急先鋒に躍り出たかに見える…

ラトゥール

Bruno Latour, "Some Experiments in Art and Politics" (2011) ブリュノ・ラトゥールがトマス・サラセーノの作品(Galaxies forming along filaments, like droplets along the strands of a spider's web)をとりあげている短文があったので、友人たちと読…

ツィンマー

ハインリッヒ・ツィンマー『インド・アート』(原著1946) 原題を直訳すると『インドの芸術と文明における神話と象徴』なので、実のところインド美術の図像分析はほとんどなく(期待していたインド美学の紹介もなく)、もっぱらインドの神話の読解と象徴系の…

ポーコック

ジョン・ポーコック『徳・商業・歴史』(原著1985) ひきつづきポーコックの論文集。第二章に所収の「徳、権利、作法」を再読したら、こちらもようやく咀嚼できるようになってきているよう。政治に関して、「法」(神や自然も含め)をモデルにした思考に対し…

ポーコック、木村俊道

ジョン・ポーコック『マキァヴェリアン・モーメント』(原著1975) 木村俊道『文明の作法』(2010) 繙くたびに挫折するポーコックの書物。イタリアのヒューマニズムがイギリスの道徳哲学に引き継がれていった経緯についてようやく自分なりに関心にひっかけ…

ジルソン、ナルディ、川添信介

Étienne Gilson, Études de philosophie médiévale. (1921) Bruno Nardi, Saggi sull'aristotelismo padovano dal secolo XIV al XVI. (1958) 川添信介『水とワイン』(2005) いわゆる「二重真理説」の問題の広がりを確認しようとあれこれ繙いてみると、ジ…

パンシャール

ブリュノ・パンシャール『形而上学的探究』(2009) 知らないうちにブリュノ・パンシャールの来日講演録が出ていた(市販されてないので気づかなかったのも仕方ないかも)。2008年の関西学院大学での講演(パスカル)は聴講したものの、ほかの会場のもの(ダ…

ダイヤモンド、カヴェル、マクダウェル、ハッキング、ウルフ

コーラ・ダイヤモンド、スタンリー・カヴェル、ジョン・マクダウェル、イアン・ハッキング、ケアリー・ウルフ『〈動物のいのち〉と哲学』(原著2008) まだぱらぱらと捲ってみたところだけれど、スタンリー・カヴェルをめぐる論集といった趣もあり、『観られ…

スピノザ(上野修)

上野修『精神の眼は論証そのもの』(1999) 上野修『スピノザ』(2006) 哲学と宗教の分離についてスピノザが考えたこと(とその思想史的状況)をおさらいしようと、二冊繙く。おそらくはアヴェロエス(主義)の「二重真理説」に淵源するものだろうけれど、…

コッチャ

Emanuele Coccia, "Physique du sensible. Penser l'image au Moyen Age" (2010) アヴェロエスのイメージ論で一書をものしているエマヌエーレ・コッチャならではと言うべきか、おもに鏡の経験を軸にしながら、西洋中世のイメージ論を縦横無尽に引用している…

武満徹

武満徹『エッセイ選』(2008) 武満徹『対談選』(2008) いまとなってはいくぶん紋切り型とも思えてしまう西洋近代批判が散見されるのは措くとして、思い通りに操作しきれない個々の音の在り方が楽器の歴史性に結びついていることが示唆されていて、まずそ…

市川浩

市川浩『現代芸術の地平』(1985) わずかばかりとはいえ現代芸術を囓って楽しんでいる身としては、感覚から想像や理性へと階層を積み上げていくような認識論はどうも実感にそぐわないが、その同じ違和感をもっていたのだろうか、この書物では感覚や知覚や想…

ラトゥール

Bruno Latour, Politiques de la nature. (1999) 生態学的な発想がますます活況を呈している観があるこのところ、ラトゥールによるエコロジー論にも目を通しておきたい(生態学[écologie scientifique]というよりエコロジー[écologie politique]がメインの書…

ラトゥール、カロン、ロー

ブルーノ・ラトゥール「理性の知らないネットワーク――実験室、図書館、収集館」(原著1996) ミシェル・カロン、ジョン・ロー「個と社会の区分を超えて――集団性についての科学技術社会論からの視座」(原著1997) いまさら気づいたが、『科学を考える』(北…

齋藤晃

齋藤晃『魂の征服』(1993) トドロフとグリーンブラットを読んだときの記憶を掘り起こしつつ、ひきつづいてアメリカ大陸征服の経緯についてあれこれと。こうしたもつれあった思想の鬩ぎあいをたどっていると、過去の「残存」とか「救済」とかいう話は、「解…

多木浩二

多木浩二『神話なき世界の芸術家』(1994) 個人的にはむかしアンゼルム・キーファー論を面白く読んだ記憶のある多木浩二によるバーネット・ニューマン論を繙いてみると、これまた面白く読む。現象学や崇高論やカバラーを援用した解釈に禁欲的なところに親近…

ルヴァイヤン

フランソワーズ・ルヴァイヤン『記号の殺戮』(1995) これもむかしから存在は知っていたものの手に取ったことのなかった『記号の殺戮』。この書物は(というかルヴァイヤンの書物自体!)どうやら日本語でしか存在しない模様。アンドレ・マッソンを中心に、…

フェルマン

フェルディナント・フェルマン『現象学と表現主義』(原著1982) むかしから存在は知っていたものの手に取ったことのなかった『現象学と表現主義』。時代精神みたいなものから哲学と芸術を類比する怪しげな「精神史」話かと思いきや、これがなかなか地に足つ…

大平具彦

大平具彦『二〇世紀アヴァンギャルドと文明の転換』(2009) シュルレアリスムと人類学の接近遭遇をもう少し考えてみようとこの書物を手に取ってみたところ、ヨーロッパのアヴァンギャルドを文化的ハイブリッドとして理解しなおすという企図を見て、なにやら…

谷川渥

谷川渥『シュルレアリスムのアメリカ』(2009) 慎ましいタイトルながら、シュルレアリスムから抽象表現主義にいたる動向が多面的に切り出されていて、一息に読んでしまう。「眼は野生の状態で存在する」というブルトンの名高い言葉も含め、シュルレアリスム…

カヴェル

Stanley Cavell, The World Viewd. (1971/79) スタンリー・カヴェルの『観られた世界』、とくにシネフィルでもない身としてはどうにもとりつく島もない映画よもやま話が長々と続き、俳優のスターシステムやら映画の窃視性やらの指摘はカヴェルの専売特許とい…